私たちが家庭内で使用しているガス器具としては、ガスレンジ、ガス給湯器、ガスストーブ、ガスオーブン、ガス炊飯器、ガス乾燥機、ガスルームエアコン、ガス床暖房などがあります。そして、私たちが家庭で使用しているガスの種類には、液化天然ガス(LNG)と液化石油ガス(LPG)があり、LNGはメタンが主成分で、LPGはプロパンやブタンが主成分です。これらの成分は可燃性ガスであるため、着火すると燃焼します。 

私たちはガスを燃焼させることによって、熱を得ます。その熱を利用して調理を行い、暖を得ることができます。ガスが燃えるためには空気(正しくは酸素)が必要ですが、空気が多すぎても少なすぎてもガスは燃えません。空気中にガスを混合させて燃焼させる時のガスの濃度範囲としては、天然ガスでは414%、プロパンガスでは210%とされています。空気が十分にあるとガスは完全燃焼しますが、空気が不十分であると不完全燃焼を起こします。不完全燃焼を起こすと有毒な一酸化炭素の発生量が増え、一酸化炭素中毒の危険性が高まります。

これらのガスは、通常の完全燃焼時であっても、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)などを微量に発生させ、空気を汚染します。そのため換気に十分気を付けなければなりません。特にガスレンジは、ほとんどの一般家庭で毎日調理時に使用するものであり、直接室内に燃焼物が排出されます。

このような家庭内で使用するガス器具による室内空気汚染に関して、イギリス政府の研究機関である建築研究所(Building Research Establishment: BRE)が以下の研究報告を発表しました[1]

BREの研究者らは、19992月までの17ヶ月以上の間、イギリス全土にわたる876の家庭における室内空気中の二酸化窒素(代表的な窒素酸化物)を測定しました。二酸化窒素の空気質ガイドラインとしては、世界保健機関(WHO)40μgm3(1年間平均)、200μgm3(1時間平均)と定めています[2]BREによる調査の結果、ガス調理器(天然ガス)を使用している家庭の57%は、40μgm3(1年間平均)を超えており、最大で620μgm3が測定されました。また、キッチンの平均濃度は21.8μgm3であり、外気の20.9μgm3よりも高い結果が得られました。

BREの室内空気汚染専門家Jeff Llewellyn氏は、健常な成人に対して健康影響を生じさせるレベルではおそらくないが、キッチンで長い時間を過ごす5歳以下の子供の健康に対して良くない可能性があること、調理中キッチンの窓は開放すべきで、他の部屋へ汚染が広がらないように、内部の扉は閉めるべきであると述べています[1]

これに関連した研究報告として、ドイツ環境衛生研究センター(GSF)Bernd Hölscher博士らが、1992年から1993年にかけて、ドイツ西部に住む5歳から14歳までの学童2,198人を調査し、表1に示す結果を得ました。

表1 ガスレンジを使用する住居における子供の症状[3]をもとに作成)

症状

オッズ比

95%信頼区間(CI)

風邪でない子供の咳症状

1.68

1.18 - 2.39

朝の咳症状

1.58

1.23 - 2.04

日中、夜間の咳症状

1.42

1.13 - 1.78

 

表1よりガスレンジを使用している住居に住む子供たちは、そうでない子供たちと比べて咳症状の有症率が約1.4-1.7倍となりました。しかしながら、喘息、気管支炎、ゼーゼー息、急性呼吸器感染症(ARI)などの有病率には影響がありませんでした。

二酸化窒素は、健康影響を引き起こす多くの室内空気汚染物質の1つですが、最近の研究は、ガス調理時に発生する粒子状物質、新築家屋の建材や家具から放散するホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOCs)に焦点が当てられています。

省エネ対応による住宅の気密化が、室内空気汚染の原因の1つであろうと考えられていることからも、他の室内空気汚染源から排出される汚染物質に対しても実態調査を行い、適切に対処すべきだと考えられます。